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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1777号 判決 1980年10月27日

控訴人 北川善太郎

右訴訟代理人弁護士 浜野英夫

被控訴人 岡本房之亟

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 尾崎力男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人岡本房之亟は控訴人に対し原判決添付別紙物件目録(三)の建物を収去して同目録(一)の土地を、被控訴人山本光雄は控訴人に対し同目録(四)の建物を収去して同目録(二)の土地をそれぞれ明渡し、かつ被控訴人らは昭和五二年五月一八日から右各土地明渡ずみに至るまでそれぞれ一ヶ月金一万円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は左記一、二のとおり附加、訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決二丁裏七行目の「もとづき」の次に「訴状送達後の昭和五二年五月一八日から」を、三丁表一一行目の「本件(三)の建物」の次に「及び本件(一)の土地の賃借権」を、同一二行目の「本件(四)の建物」の次に「及び本件(二)の土地の賃借権」を、五丁表初行の次に「4抗弁6の事実は争う。」の一行をそれぞれ加え、五丁表五行目の「第(一、二回)」を「(第一回)」と訂正する。

二  《証拠関係省略》

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  被控訴人らの抗弁について検討するに、抗弁1ないし3の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》を綜合すれば、被控訴人山本は昭和二五年二月頃、粕谷うめ(以下うめという)から本件(四)の建物を賃借し、被控訴人岡本もその頃から本件(三)の建物においてうめと同居していたが、同女は昭和三五年一二月二二日死亡し、その遺言により被控訴人岡本は本件(三)の建物の所有権及び右建物の敷地である本件(一)の土地の賃借権を、被控訴人山本は本件(四)の建物の所有権及び右建物の敷地である本件(二)の土地の賃借権をそれぞれ取得したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで右賃借権の譲渡に対する控訴人の承諾の有無について検討する。《証拠省略》を綜合すると、うめの存命中は同女及び被控訴人らが、同女死亡後は被控訴人山本あるいは同人の妻と被控訴人岡本とが毎年一月ないし六月分の賃料を同年七月頃に、七月ないし一二月分の賃料を同年一二月又は翌年一月頃に、徒歩で三分位の距離にある控訴人方に持参して直接控訴人又は同人の妻に支払っていたこと、うめの死亡後間もなく被控訴人らは控訴人にうめ死亡の事実及び本件(三)、(四)の建物の所有権を取得した事実を告げたところ、控訴人は特に異議故障を述べることもなく昭和五一年六月分までの賃料を受領していたこと、しかも控訴人は昭和三八年一月当時六ヶ月八五五〇円(三・三平方メートル当り一ヶ月一五円)であった賃料を昭和三九年七月には一万一四〇〇円(同二〇円)、昭和四一年一月には一万四二五〇円(同二五円)にそれぞれ値上したのをはじめ以後昭和五〇年一月まで五回に亘り逐次賃料を値上し、昭和五〇年一月当時の賃料は六ヶ月五万七〇〇〇円であったことが認められる。また《証拠省略》を綜合すれば、被控訴人山本は昭和五〇年秋頃に本件(四)の建物を取壊しその跡に長男山本澄男名義で建物を新築することを計画し、これにつき控訴人の承諾を求めたところ、同人はこれを承諾し、昭和五〇年一〇月一日及び同年一二月一六日に被控訴人山本の依頼に応じて、住宅金融公庫からの融資及び建築確認を受けるのに必要な「住宅建築に関する地主の承諾書」と題する書面の控訴人名下に押印して右書面二通を作成交付するとともに、さらに右建築資金の他の融資先である協和銀行に対し被控訴人山本が新築建物に抵当権を設定することをも承諾し、右承諾書に押印したこと、以上の事実が認められる。《証拠判断省略》

しかして右事実ことに控訴人がうめの死亡を知りながら一五年余に亘って被控訴人から賃料を徴収し、その間少なくとも七回に亘って賃料を増額し、また被控訴人山本の建物改築につき承諾を与えている事実に照すと控訴人は被控訴人らに対しうめの死亡後間もなく、うめの被控訴人らに対する本件(一)及び(二)土地の賃借権の譲渡を暗黙のうちに承諾したものと認めるのが相当である。

尤も《証拠省略》によれば、控訴人はその後前記建物改築についての承諾を撤回し、被控訴人らの土地使用について異議を述べはじめた事実が認められるが、右は前記各本人尋問の結果によれば被控訴人らが、うめから被控訴人らへの名義書替料として三・三平方メートル当り二八万円を支払って貰いたいとの控訴人の要求を拒否したことに起因するものであることが認められるから前記認定を覆えすにたる事情とはなり得ない。

三  してみると控訴人の本訴請求はその余の点を検討するまでもなく理由がなく棄却を免れないから、これと同旨に出た原判決は相当であって本件控訴は理由がない。よって民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 賀集唱 福井厚士)

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